下戸次の家は大正の終わりから昭和の初めにかけて作られた家です。 今のような便利さはありませんでしたが、そのころの日本には本来の日本らしさが残っていました。
私たちは便利さを手に入れた代わりに、本来の豊かさを忘れてしまった気がします。 今になって本来の日本的豊かさに立ち戻りたいと皆が思うようになりました。 下戸次の家は当時の人には懐かしく、今の人には新鮮に映る事でしょう。
これまで、建物から当時の物語(ストーリー)を読み取り、プランを浮かび上がらせてきました。今度は、その視線を、そこから少し外へ外へと伸ばしてみましょう。そこにも、当時の生活は広がっていました。
光、風、音、香り、風景。昔の人たちは、今よりも上手に、様々なソトからの恵みをおウチの中に取り込んでいたように思います。またそれは、そのままウチとソトの空間を繋げるものでした。
食べるものや暮らしで使うものを収穫したり、炊事洗濯をしたり、子供達の格好の遊び場であったり。様々な人の営みが、ウチとソトを行き来しながら行われていました。 そしてそこには、人だけでなく、様々な生き物が関わっていました。爽やかな風や木陰、季節の花実を届けてくれる植物たち。土を肥やす虫の営み。そこに集まる鳥の声。 昔の人たちは、その土地が持ち合わせている自然環境と、より近い関係で暮らしていたように思います。そして、その恵みを感じる心を持ち合わせていました。
下戸次の家では、そういった様々なものを繋げる役割として、またそういった感覚を蘇らせたいという思いが、お庭の存在の元になっています。
本来隔たりをもたない自然の要素に繋げられた空間は、そのまま、この家と地域とをつなげます。当時の暮らしが持ち合わせていた豊かさが、戸次の風に乗って、その周りへと運ばれていけばいいなと思います。