下戸次の家は大正の終わりから昭和の初めにかけて作られた家です。 今のような便利さはありませんでしたが、そのころの日本には本来の日本らしさが残っていました。
私たちは便利さを手に入れた代わりに、本来の豊かさを忘れてしまった気がします。 今になって本来の日本的豊かさに立ち戻りたいと皆が思うようになりました。 下戸次の家は当時の人には懐かしく、今の人には新鮮に映る事でしょう。
平面プランで語られた「すわる、腰掛ける」という所作。 これらは、人がくつろぎ、癒しを得たい時に行う所作と言えます。 ここまで平面・外構プランにより住む人がくつろぎ、癒されるための居場所が多く生まれてきましたが、ここでは照明器具と家具についてお話ししたいと思います。
この2つは冒頭で話したくつろぎ、癒しに大きな影響を与えるものであり、それが空間のイメージを決めるといっても過言ではありません。 今回は今あるものを生かすリノベーションの雰囲気をより良いものにするため、デザインは、どこか懐かしく味わい深さを感じさせるものを選びました。
先ず、照明についてお話しします。 人がくつろげる、癒される、つまり心地よいと感じる要素のひとつに「光」があります。 「光」は人間の行動と親密な関係にあります。 例えば、朝昼は働く人間の行動に合わせ、太陽の光を家に取り込み、明るさを確保します。 これに対して夜は働いて疲れた身体を癒す時間です。 そのような時間も朝昼と同じように強制的に部屋を明るくしてしまうと疲れてしまうのではないでしょうか。
重要なのは必要な場所に必要な光を設けること。 つまり、部屋全体を明々と照らす照明を配置するのではなく、シーンごとに優しく部分を照らす照明を配置することが必要なのです。 人は必要以上の光を浴びると、自然と活動的になり本来休息をとるはずの家でくつろぐことができなくなります。 ですから、晩御飯を食べるときには食卓の上のペンダントライトを灯し、趣味の読者の時間はソファのそばにあるスタンドライトを灯す。 元をたどれば昔の人々がしてきた方法です。
家具は目線が通るようにするため背の低い家具を選びます。 すると開放的な空間となり、自然とリラックスできるようになります。 低くするのにはもう一つ理由があります。 日本の家は、畳に座ったときの視点で景色が美しく見えるように設計されています。 障子の下半分が開閉でき、開けるとガラス戸から庭が見えるという「雪見障子」も座って楽しむ仕掛けです。 これは低さが美しいとされているからでしょう。 立ち仕事をする台所と同じ空間にある食卓を除いては、日本の暮らしをイメージしながら、重心を下げることを意識しました。 例えばソファの座面の高さを低く抑えることにより、座った時の視線が低くなります。 身体がより地面に近くなると安定感があり、くつろぐ姿勢に入りやすくなるのです。
このようにインテリアは暮らしにおいて人間の感性に一番近いところに存在します。 下戸次の家に訪れた人が自然とくつろげる空間になって欲しいと思います。